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「魚が食べられなくなる日」著:勝川俊雄 の考察

category : メールマガジン2018 2018.12.31 

肌寒い日が多くなり 鍋ものが美味しい季節が到来しました。
これからはインフルエンザが流行する季節でもありますので、体調管理には十分に気を付けてお過ごしください。

さて、魚介類のお好きな方にとっては正にこの季節 鍋の具として、「カワハギ」「あんこう」「カニ」「河豚」など魚介類がおいしくなる季節でもあります。
しかし、なんとお寒いタイトルの本「魚が食べられなくなる日」なぜ最近のホッケは小さくなったのか?
危機感を募らせ警鐘を鳴らすこのタイトル、個人的にも非常に興味がある本に巡り合いました。
ここで皆さんとその疑問について一緒に考察ができればと思います。

この本のサブタイトルでもありますように「なぜ最近のホッケは小さくなったのか?」ご存知でしょうか?
安くて、大きくて、脂ののった居酒屋の人気メニューのホッケ、かつては居酒屋ではインパクトと安さでは人気メニューでしたが、そのホッケが小さくなってきていることに皆さんはお気付きでしょうか?
居酒屋のみならず 有名な定食チェーンの人気メニューでも値上がりやら入荷不足で一時定番メニューから無くなる事態なども招いているのが現状のようです。

本書の警鐘として「日本の漁業が危機にある」、といっても一般の消費者にはピンとこないかもしれませんが、日本近海で獲れる魚の数は確実に減少し、サイズも小さくなっていることがわかっています。
日本の漁業がおかしくなり始めたのは1970年代に入ってからのことだそうです。
世界の沿岸国が200海里の排他的経済水域(EEZ)を設定したことにより、海外漁場から追い出されたことが一つの原因です。
加えて、日本国内の漁場では水産資源が確実に減少しています。
日本の天然資源の漁獲量は、戦後急速に増加し、1970年代の後半に1,000万トンになりました。
しかしその後、1980年代後半から減少に転じ、現在は370万トン(2014年)にまで落ち込んでいます。
実に最盛期の4割以下にまで減っているのだそうです。

先に挙げたホッケを例にすれば、10年ぐらい前から、大きなホッケが徐々に消えていき、最近では、居酒屋のメニューでホッケを見ること自体も少なくなってきました。
それもそのはず、ホッケはたった20年で資源量が10分の1に減ってしまっているそうです。
ホッケが小さくなった理由は、獲れるホッケの量が減っていき、大きくなる前の小さなホッケも獲らざるを得なくなっているからだそうです。
20年で10分の1に減ったとなれば、普通の国なら、禁漁かそれに近い措置を取って資源の回復を図るはずです。
しかし、日本政府はホッケ資源の減少をくいとめるための具体的な措置を何ら講じず、資源が減少するのをただ手を拱いて眺めているだけだ、という指摘をされています。

またホッケと並んで、近年は大衆魚になったウナギもですが、何十年にもわたって資源が減少し、すでに絶滅危惧種となっています。
他に例を挙げれば限りがありませんが、乱獲が続くクロマグロも、そしてお正月料理には欠かせない数の子も、ほぼ外国産であることなど、日本全国で魚が獲れなくなっているその根本原因、それは日本の漁業による過剰な乱獲であり、水産資源の「元本」を減らし続けたために「残高」が底をつきかけている、その結果として現在、漁業の衰退が起こったと考えるのが自然であると結論付けておられました。

このような例で海外においては、カナダのニューファンドランドのタラも同じように乱獲により資源を減らし過ぎ、20年以上禁漁を続けても未だに資源が回復していないとのことです。
日本のニシンと同じで、このような事例は世界中で観察されているようです。
魚が獲れなくなってからでは手遅れであり、まだ魚が獲れるうちに規制に踏み出す決断力が必要だと述べておられます。

では具体的にはどのような対策が講じられるのか?
勝川俊雄准教授は、「ノルウェーの漁業制度」を具体例として学ぶと示しておられます。
そのノルウェー政府が示した漁業政策は以下の3点に集約できるそうです。
①個別漁獲枠方式を導入し、質で勝負する漁業への転換を促す
②過剰な漁業者の退出・世代交代を促進するSQS制度の導入
③補助金を減らして、水産業の自立を促す

この詳細につきましては、説明を加えると非常に長くなりますので割愛しますが、この「ノルウェーの漁業制度」は「日本のニシンのようになるぞ」と、日本を反面教師として、ノルウェー当局が漁師たちを説得し、政策実施されたということなのですが、なんと皮肉なことなのでしょう。

さらに勝川俊雄准教授はこう結論付けておられます。
日本が今後生き残る為には、成長を前提としたこれまでの枠組みから、縮小を前提としたより効率的で生産性の高い枠組みに、社会を変革していく必要がある。
漁業の場合はさらに、問題点は明らかで対処法も確立されています。(例:ノルウェーの漁業制度など)
そして、日本周辺海域の生産性は高く、国内に世界屈指の市場があり、洗練された魚食文化によって、水産物の価値を高めることができる世界一ともいえるポテンシャルを持った社会構造を日本の漁業が培っており、誰もが衰退産業だと思っていた漁業が、成長産業に生まれ変われるとしたら日本社会全体を勇気づけることができると述べておられます。

この問題を先送りしていたら、ますます問題解決に使える資源(魚)が減っていくのは明らかで、補助金で問題を先送りするという安易な道を選ばず、国策として、真剣かつ早急な手段を実施していただき、美味しい魚を未来に繋げ守って貰うことを切に望みます。

参考資料
「魚がたべられなくなる日」著:東京海洋大学 准教授 勝川俊雄

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