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なぜ「近大発のナマズ」はウナギより美味いのか?”新しい魚”開発の舞台 山下柚実〔著〕の考察

category : メールマガジン2017 2017.10.31 

新米や栗、秋野菜など まさに食欲の秋を満たす美味しい食材が店頭を賑わす季節となりました。
しかし秋の味覚の代表格でもありますサンマの不漁が近年ますます酷くなってきているようです。
原因は温暖化とも乱獲とも言われておりますが、他の種類の魚介類(マグロ、アジ、イワシ、サケ、イカなど)も同じように漁獲高が少なくなっており、原因はやはり乱獲による資源の枯渇が顕在化していることは明白です。

そんな折りに書店でふと目にした本、『なぜ「近大発のナマズ」はウナギより美味いのか?”新しい魚”開発の舞台裏』のタイトルに興味を引かれつい手に取って読んでみました。
過ぎ去った夏(土用の丑の日)にいつも思い出したようにウナギの減少が叫ばれていることが夏の風物詩となってしまっていること、今年の夏に大手スーパーで「ウナギ味のナマズ」を店頭販売にこぎつけた近畿大学のことを思い出しました。

本書では、「ウナギ味のナマズ」を開発した近畿大学世界経済研究所教授の有路昌彦氏の開発秘話(=苦労談)が色々綴られていますが、話題騒然で、土用の丑の日を狙った話題を集めたという意味では成功を収めたと述べられています。
しかし、実際は手放しで喜べたものではなかったようです。

予定していた販売量に対して生産が全く追い付かず、当初予定の100トンに対して実際には20トンほどしか供給ができず、関係者は愕然とし決定的な量不足であった事が事実であったようです。
原因は簡単に言えば、話題先行でナマズの需要が大きく膨らみ過ぎ、ナマズ人気に火が付くのではないかといった予測からナマズが前より高く売れるとばかり一斉にナマズの稚魚を買われてしまった結果、育てようにも稚魚が全く足らない状態となってしまったことが事実だそうです。
また天候も追い打ちをかけ、大型台風の影響で鹿児島県大隅にある養殖拠点では大雨で生け簀の中に水が流れ込み、大量のナマズが死滅し、予定していた出荷量が確保できなくなってしまったようです。

また、「ウナギ味のナマズ」と言っている通り生産することに加え「加工」という新たなハードルも越えなくてはならず、現状はもちろん人の手でさばいており、形も大きさもウナギとは違うナマズは特別な切り方が必要です。
表皮のぬめりを除去する下処理も必要で、自動の蒲焼きを使えるようにナマズの身を三枚に下ろし「フィレ」にする段階まで、手で加工する必要があるのが現状のようです。
ビジネスとして展開するには幾つかの課題をまだまだ解決してゆく必要が多くあるようですが、他にも近畿大学は「におわないブリ」の生産や富山県射水市でのアナゴの完全養殖実験にも取り組みを行っているようです。

更に有路氏は、世界に目を向けると成功事例である「ノルウェーサーモン」と同じように、日本でも「輸出のマーケティング手法の一本化」を提唱しており、世界を相手に一丸となって戦う『ジェネリック(包括的)マーケティング』という手法こそが今求められています。
すでに大手水産会社一社だけが潤うという時代は終わったといわれ、日本が世界一の水産物輸出国になることを本気で目指すべきで、各産地や生産者が一定のルールの元に連携しあえば、それは可能だと考えています。
そして次のステップとしては「食縁」という団体で世界への販売を具体化させていくようです。

このことは近い将来(具体的には2030年)には水産養殖、つまり養殖魚が世界の食用魚の3分の2近くを生産することとなり、世界に目を転じると、「魚」をめぐる現状と未来が見えてきて、世界銀行の報告書「2030年までの漁業資源:漁業と養殖業の見通し」から
今後の漁業の大きな市場として成長しつつある中国が、2030年までに世界の食用魚消費の38%を占めるという予測がでています。

完全養殖に成功した「近大まぐろ」に続く成功事例として、ますます日本の養殖魚に期待したいと考えます。

参考文献
なぜ「近大発のナマズ」はウナギより美味いのか?”新しい魚”開発の舞台 山下柚実/著 裏光文社

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